徒然なるままに 45 ゼラチン・コラーゲン・プリン | 市川内科医院のブログ│実験室

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徒然なるままに 45 ゼラチン・コラーゲン・プリン

2024年4月21日

実験室ブログ 4/16  徒然なるままに 42. 「凍結乾燥の話」で、寒天のことを書きました。スーパーへ行ったら昔懐かしい寒天が売られていました。産地は茅野でした。 話のついでにゼラチンの原料のこと、寒天から作る寄せ菓子のいろいろ、思いつくまま書きます。今回のブログは長いです。覚悟して読んで下さい。一度に全部読むと疲れるので、何回かに分けて読むことを勧めます。

 

むかしからの四角柱の寒天が売られていました。(写真左)  寒天は海藻の天草(てんぐさ)の煮汁(sol  ゾル)を凍結乾燥したものです。水に溶いてヨセ菓子の原料にします。寒天は海藻に含まれる食物繊維で出来ていて、冷やすと固まります。これを ゲル (gel) 化と呼びます。  寒天は安定していて使い方は簡単です。溶液を加熱しても冷やせば簡単に固まり、固まったゲルも熱で溶けることはありません。   一方、ゼラチンは意外に神経を使います。高校時代、生物の実験でゼラチン培地を作りました。60年も前の話で、粉末のゼラチンを水に溶かそうと思ったのですが、うまく溶けません。仕方がないので火にかけて、溶けた溶液を冷やしたのですが、今度は固まってくれません。後になって、直火で温めるとゼラチンが変性するので、加熱は湯煎(ゆせん)ですることを知りました。今は、水で溶けるゼラチンがあります。(写真中央)

同じゲルでも、蒟蒻(こんにゃく)のゲルは堅固です。コンニャク芋に含まれる食物繊維のマンナンに 水酸化カルシウム(CaOH2)  の溶液を加えて凝縮させて作ります。プリプリのコンニャクはそのままではアルカリ性が強すぎて辛いので、水に晒してアク抜きします。  豆腐は豆乳に塩化カルシウム(CaCl2)を加えて凝集させます。 塩化カルシウムは海水にたくさん含まれていて苦みがあります。だから苦汁(にがり)と呼び、冬期の道路の消雪材でもあります。豆腐もやはり水にさらしてニガリを抜きます。

 

 

 

 

ゲル状の菓子の写真です。左のゼリー菓子は今はゼラチンを使いません。ゼラチンは独特な動物臭があるので菓子には向きません。今は、食物繊維や増粘多糖類を使ってゲルを作ります。真ん中の蒟蒻ゼリーは原料にコンニャク成分のマンナンが含まれます。右のプリンもゲル菓子ですが、卵のアルブミンを加熱凝固したもので、寒天菓子やゼリー菓子とは製法が異なります。ところで、痛風や高尿酸血症の患者さんに、「プリン体を多く含む食品を控えなさい」というと、よく「私はプリンは食べない」と反論されることがあります。プリンは  pudding  を英語で発音すると、「プリン」と聴こえるからで、プリン体とは別物です。プリン体とは生化学用語で、細胞内の染色体に含まれる核酸を構成する成分の総称です。細胞分裂が盛んな細胞に多く含まれます。詳しくはWeb.site  で調べてみいて下さい。

ここからは、ちょっと科学(医学)的な話です。(これまでも、十分科学的だったのですが・・・)   まずは、コラーゲン、ゼラチン、コラーゲン・プロテインのことです。コラーゲンを加熱分解するとゼラチンになり、さらに加熱するとコラーゲン・プロテインに分解します。構造的にはコラーゲン・プロテインが一本の繊維だとすると、ゼラチンは繊維が集まって少し太くなった紐です。コラーゲンはゼラチンの紐が3本がよじれた構造の縄の様なものです。コラーゲンとゼラチンの溶液(ゾル)は冷やすと固まり(ゲル化し)ますが、コラーゲン・プロテインはゲル化しません。

コラーゲンは特保だとか機能性だとかのサプリメントの宣伝によく出てきます。コラーゲンは和訳すれば「膠原繊維」です。膠原病を起こす標的組織です。動物の皮膚の下には筋肉がありますが、両者を緩やかに繋ぎ、皮膚が筋肉に密着せず滑らかに動けるのは、結合組織があるためです。手背を指でこすると皮膚がある程度まで自由に動くのは、結合組織で緩やかに結ばれているからです。結合組織は、丁度、布団の真綿と同じ役割です。この結合組織は膠原繊維(コラーゲン)で構成されます。ほかに、コラーゲンは関節(骨と骨を繋ぐ器官)にある靭帯、骨と筋肉を繋ぐ腱にもたくさん含まれています。コラーゲンは体内の蛋白質のうちの30%ぐらいしめる大事な蛋白質です。

コラーゲンは実は昔から使われてきました。ニカワ(膠)で、これは動物の皮をゆっくり煮て得られます。皮を一昼夜煮るとネバネバした液体が得られます。木材を接着するのに使われ、一度くっ着くと絶対に剥がれないほど強力な接着剤です。魚の皮の下にもたくさん含まれます。サバなどの煮つけ汁を冷蔵庫に入れておくと、翌朝きょときょとした煮凝り(ゲル)になっています。煮凝りを熱いご飯に乗せればサーッと溶け(ゾル化し)ます。膠原病は結合組織病ともいわれ、コラーゲンを標的とした自己免疫疾患です。膠原病を高原病と勘違いする人がいますが、膠原病なら高山病でしょうか ? (冗談!)

膝関節痛に「コラーゲンを飲むと治る」とよく宣伝されます。恐らくコラーゲン・プロテインのことだと思いますが、はっきり言ってコラーゲン(・プロテイン)を飲んでも膝痛には効きません。確かに、変形性膝関節症では膝関節内にコラーゲンを注入する治療法があります。私がひざ痛の時、膝関節にコラーゲンを注射してもらったことがありました。効果は?といえば、効いたような、効かなかったような・・・・   (整形外科の先生御免なさい)  まして、コラーゲン・プロテインを飲んだって、そのままの状態で膝関節に到達することはありません。タンパク質は摂取すると消化酵素の力で、アミンからアミノ酸に分解されて、腸管から吸収されます。低分子の状態でヒトの体に入って、肝臓で目的のたんぱく質に合成されるのですが、アミノ酸が都合よくコラーゲンに合成されるとは限りません。脅かすようで悪いけれど、慢性肝炎や肝硬変症で肝臓が固くなるのは、肝臓の細胞が壊死してそれがコラーゲンに置き換わるためです。アルコールを長期間、多量に飲んでもそうなります。高いお金を出してコラーゲンを飲むくらいなら、鯖でも鰯でも、鯵でも煮て食べた方が蛋白質補給、ω3系脂肪酸の摂取もできて好都合です。それに美味しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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