私の本 56. 第172回 直木賞受賞作 自然科学と文学
2025年3月17日
「藍を継ぐ海」 伊与原新著 短編5編が収められている。自然科学をモチーフに小説仕立てしてあり、私には読みやすかった。1 「夢化けの島」山口県萩市沖の日本海に浮かぶ小島で、陶芸家が陶器の土を探す話 2. 「狼犬ダイアリー」 紀州犬とニホンオオカミのあいの子の犬の話 3. 「祈りの破片」 長崎原爆の石やコンクリートに焼き付けられた放射線の影 4. 星隕つ駅逓」北海道の畑で隕石の破片を探す話 5. 「藍を継ぐ海」 ウミガメの産卵と孵化の話
またしても、あら捜しをしてしまった! 3.の長崎の原爆で、野菊の影が敷石に刻み込まれる話である。資料の解説メモで、「・・・Mum 」とある謎解きを、「Chrysanthemum」と読み解くのが味噌である。ところで、野菊の影が石やコンクリートの表面を融解して影を作ることが説明されているが、そのようなことは絶対にない。例えば、野菊を写真のフィルムの上に置いて、放射線を照射したとする。人体のレントゲンを撮るよりずっと低用量の放射線を照射しないと、できた写真は真っ黒な画像しか写らない。引きかえ、石やコンクリートの表面を解かす放射線はすごいエネルギーである。(だから原爆なのだ。) 野菊をフィルムに写す放射量を 10の0乗(=1)と仮定すると、病院でヒトの体をレントゲンで写す放射線量は 10の3乗くらいか、そして岩やコンクリートの表面を溶かす放射線量は 10 の 10 乗ぐらいだと思う(あくまで当てずっぽうです)。岩を溶かすほどの放射線を当てれば、野菊や人体は瞬時に焼き尽くされてしまうだろう。広島や長崎で石壁に人体の影が焼き付けられた・・・との報告があるが本当だろうか?
直木賞受賞作にいちゃもんを付けるのは私ぐらいだろう。ところで、私の家の近くのアパート名は「Chrysanthemum」である。不思議なアパート名だ。大家さんが学のある人らしい。