徒然なるままに 58. 犬の飼い方
2024年5月25日
昨日の夕方車を走らせていたら、大きなゴールデンレトリヴァーを散歩させている人を見た。見ると犬の腹に胴巻(どうまき)みたいなフードが巻かれていた。私の車の室内は 22℃だった。この日は日本各地で気温が上がり、多くの地点で30℃を超えた。瘋癲(ふうてん)の寅さんじゃあるまいし、夏のこの暑さの中で胴巻は可哀そうだ。 (ところで、腹巻は本当に効果があるのだろうか。お腹が弱い(すぐ下痢をする)子にはお母さんが腹巻をさせた。 「体が弱い子は腹を冷やすと風邪をひく」と言うが、いま子供に腹巻をさせるお母さんはいない。 「冬に風邪が多いのは、体が冷えるからだ」と言われる。半分本当だが半分嘘だ。気温が低いとウイルスの活動が活発になり、ヒトが風邪のウイルスに感染しやすいためだ。一方、ヒトは体温が下がると免疫力が低下して風邪を引き易くなる。逆に、体温を上げると免疫力が上がって感染症は治癒に向かう。風邪をひくと熱が出るのは身体がそうさせているのだ。熱冷ましをあえて飲むのは理に反している。ひところ、厚労省が解熱剤の過剰投与をやめさせるため、解熱剤の投与量を下げる勧告を出した。暫くは医者がそれを実行しが、患者からごうごうたる非難が来た。「あの医者は熱冷ましも出してくれない!」 それで、厚労生省もあきらめた。だからコロナやインフルで熱冷ましを飲むのは、却って治癒を遅らせているのだ。 ヤクザが腹にさらしを巻くのは、ヤクザが皆お腹が弱いわけではない。出入りの時、ドスで腹を刺された時の傷を少しでも浅くするために巻くのだ。(つまり防弾チョッキである。)
話を戻す。もともと犬は暑さに弱い。寒い方が飼育環境に恵まれている。イヌは汗腺がないため暑さに弱い。暑くなると、息をハアハアさせて体温を下げる。ブルドッグは人為的に作られたかたわの犬なので、首が短くてその空冷効果が弱い。焼けたアスファルトの上で、ブルドッグを散歩させると最悪の場合犬は死にます。一方、犬は寒さに強いので極地探検では犬ぞりを引くために南極や北極探検に連れて行く。南極点を最初に踏破したノルウェー隊は北極犬に橇(そり)を引かせて成功した。一方、イギリス隊は馬に橇をひかせて全員遭難死した。馬は汗腺があるので橇を引けば汗が出る。その汗が凍って体を冷やし凍死した。 イヌは汗腺がないから汗が出ない。それに、寒さに強い。だから助かった。日本の南極越冬隊が昭和基地に残したタロウとジロウが冬を越し、翌年元気で見つかったことがある。イヌは寒さに強いのだ。さらにイヌは夏毛と冬毛を抜け替えで体温調節する。一方、暑さに弱い。どうか、ゴールデンレトリヴァーを散歩させるときは胴巻をささせないで欲しい。猛吹雪やブリザードの中でも風の弱い所でくるっと丸まって寝てしまう。絶対凍死しない。 ヒトは自分の気持ちで犬にいろいろな無駄なことをやってやりたくなるが、それはanimal wellfare に反している。「可愛がっているのではなくいじめている」と心がけて欲しい。毛足の長い犬を飼っている人は、夏はこまめに毛を刈りそろえて欲しい。室内ではエアコンを効かせて欲しい。 40年ほど前、友人がゴールデンレトリヴァーを屋内で飼っていてびっくりしたが、今は犬は屋内で飼うことが多い。本来イヌは屋外で飼うものである。それは仕方ないけど、どうか散歩のときの胴巻きは止めて欲しい。
動物の放熱は体表面積の大小による。体表面席と体重の関係について考えた。体重当たりの体表面積が大きいほど放熱は少なくなる。(体表面積は身長の2乗、体重は3乗に比例することから考えて下さい) 大型犬は寒さに強く、暑さに弱い所以(ゆえん)である。雪のあるときにチワワを散歩させるときはフードも必要だろうが、ゴールデンレトリヴァーは裸?でよい。
イヌ属はオオカミも、セントバーナードもチワワも全部同種で、それぞれが変異種である。生物の学名は・・属 ・・種のあとにver.何々と付く。何々が固有種をを示す形容詞なのだ。すべてのイヌ交互のゲノムの違いは0.000?%に過ぎない。ヒトとチンパンジーの違いより少ないのだ。だから、犬同志は交雑種が生じる。昔、日本にオオカミがいたころ、オオカミと飼い犬との交雑種が生まれた話はよく聞く。場合によってはセントバーナードとチワワの交雑種だって生まれるかもしれない。北極犬は寒さに強いと言われるが、それはイヌ全体に言えることである。ただ、先ほど書いた理由により、大型犬ほど「弱暑強寒」の傾向が強い。
私はこのゴールデンリトリヴァーの飼い主に言いたい。「夏はこのフードはやめたら?」 飼い主は言うだろう。「この子(!)はフードを咥えてきて、着せてくれと言う。きっとフードが着たいんだ」 私は心の中で「違うんだ。犬は散歩がしたいだけでフードを咥えてくるんだ。”散歩=フードを着る” と刷り込まれているだけだよ」 犬は本能でしか動かないのです。
馬は汗腺があるので暑さに強い傾向がある。犬の祖先は寒い所で、馬の祖先は暖かいところで、進化してきたのかも知れない、ところで、馬は賢い動物であること言う。アメリカ映画に「Horse whisperer」(邦題「モンタナの風に吹かれて」)があり、心に傷を持った馬に囁(ささや)きかけて、馬の心を癒す話である。馬は人の心情を理解できる動物らしい。 J,スイフトの「ガリヴァー旅行記」では馬の住む国にガリバーは旅行して馬社会の進んだ文化を解説する。朝日新聞連載小説「花よ、人よ」今村翔吾 では、楠多聞丸の愛馬に「香黒」が出てくる。この馬は賢く、人の心が読める。 片や、犬は馬ほど賢くない。犬は仕込めばヒトに懐(なつ)くけれど、あれは人の心情を理解したわけではない。芸を覚えるのは報酬を期待しているのだ。ヒトの指示に従うと餌がもらえるとか、褒めて頭をなでてもらえるからだ。単なる、条件反射なのだ。 (最近は「子供や部下は褒めて育てろ」と言われているが、それでは子供や部下を犬と同じと考えていて可哀想だ。子供や部下をヒトとして認めるのなら、きちんと説明して指導してやるのが正しい。) 犬が賢くない証拠に、「犬は失敗に学ばない」、「同じ過ちを何度目も重ねる」。 犬を正しく飼うのは、感情や感覚ではなく科学である。
最後に、今のペット・ブリーディングの問題点を指摘しておきたい。犬はオオカミが祖先、猫はヤマネコである。世界各地でヒトに懐くように、ペットとして飼いやすくするために、純粋化して作ってきた結果だ。いま、何々犬と言われる犬はすべてこうやって作られた。今の固有種は全て人為的に作られた動物なのだ。さらに、ドッグショウで入賞するような純粋犬を長年かけて作ってきた。望む形質を持った犬同士を掛け合わせて希望の子犬を得る。さらにその子犬と理想に近い形質を持った子犬を掛け合わせて、超純粋化した子犬が産ませる。・・・・・ それを繰り返す。そうやって近親婚(いまブリーダー業界では規制しているが・・・)を重ねていったのが、今のペットなのだ。 近親婚は良い形質は強調される半面、悪い形質同士が合すると劣勢遺伝が生じて様々な障害が現れる。 ヒトが近親婚を避ける理由はそれである。悪い?例として、フランスの画家「ロートレック」は、近親婚を続けてきた貴族の子として生まれた。ロートレックには重い骨代謝の疾患があり、幼少時期から骨粗しょう症で転倒する度に下腿が骨折した。長じたときには下肢が異常に短い奇形体になった。幸い貴族の家系に生まれたので経済的には困らなかった。彼は酒場で過ごし、踊り子の姿を描いて過ごした。
以前「純血種という病(やまい)」と言う本を読んだ。今、日本で売られているペットは、全てこの問題を抱えている。先ほど話したブルドッグをはじめ、今のペットの動物はハイブリッドのペットに比べ寿命が短い。一方、別々の形質を持った種同士を交配種すると、交雑(hybrid)種が産まれる。純粋種に比べhybridoo(ハイブリッド)種は良い形質だけが強調されるので、その子は優秀である。頭脳、性格、体力すべての面で両親の良い所だけ強調されるからである。 人種間でも同じことが言える。犬でもドッグショウでは審査の対象にはならないが、ペット として飼うのには飼いやすく丈夫なのでお勧めです。昔の犬はみんなこんな犬だったので、飼うのはとても楽しかった。 ハイブリッドが優秀であることを、「雑種強勢」と言う。 車でもハイブリッド車が人気あるのもその理由からだろうか?
私は戌年(いぬどし)なので(?)犬は大好きだ。過去に私は犬を2度飼ったことがある。いま、犬をくれると言われても断るだろう。その理由は 1)犬を飼うのは手間と暇がかかること、そして 2)犬が死ぬと悲しいからだ。親が死んだ時より悲しかった。