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私の本の読み方 23.火宅の人

2024年8月12日

 

沢木耕太郎の評伝「檀」で「火宅の人」のことが書いてあったので、興味を持って読んだ。

 

「火宅の人」檀一雄著  主人公は桂一雄だが檀一雄の私小説だろう。桂が家庭を顧みずに、愛人やその他の女性との遍歴を重ねる、しっちゃかめっちゃかな生活ぶりが書かれている。だが、壇が本当に描きたかったことは、旅へのどうしようもない憧れだと思う。それを水上勉は解説で「天然の旅情」と呼んだ。さらに、桂は東京にいても生活拠点をいくつも掛け持つのだ。  桂みたいな人はいるだろうか? いや、いるのだ。彼は今でいう発達障害のADHD (注意欠陥多動性障害) だろう。ADHDの人は意外と多い。有能で世間的にも活躍している人が多い。ADHDは旅好きが多い。ひと所にじっとしておれないからだ。モーツアルトがそうだった。モーツアルト一家も一箇所に定住できず、職(高待遇)を求めて各地を転々とする。父(レオポルド)  がその様な性格だったのか?  桂も全国を飛び回って、その土地の友人を呼び出して飲んで、その席で別の友人を呼び出し、場所を変えて飲み直す。それを繰り返すので、一度の旅で泊まる旅館がいくつも出来てしまう。 アメリカやヨーロッパでさえ、予定がない長期間の滞在と移動を繰り返す。(この点では、沢木耕太郎の「深夜特急」も同じだ) 一番印象に残るのは、九州の離島出身の徳子と九州を旅する下りだ。徳子の境遇に同情しながら、九州各地を幾日も一緒に旅をする、まさに「天然の旅情」を地で行く。そして、どちらかが旅を続けられない理由ができて、別れ別れに自分の城に戻るのだ。

私の知人で桂ほどではないが、「天然の旅情」を私に教えてくれた先輩がいる。私もどっちかと言うと興味先行タイプの人間なので、彼は良く山や旅に誘ってくれた。私が食事作りとかテントをたたむとか、嫌な仕事も厭わずやるので便利に使われた。(教えてくれた)   先輩は私をうまく旅に慣れさせてくれた。 車で九州に行ったとき、広島県の福山で日が暮れてしまった。テント場が見つからなかったので、福山港の埠頭のコンクリートの上で寝た。当時のテントは自立式でなので、ポールを立ててロープで引っ張るのだが、ロープを止めておくペグを地面に打つ必要がある。しかしコンクリートの上ではペグは打てない。彼はグランドシーツを広げ、そこに寝転がり上からテントを被ぶって寝てしまった。仕方がないので、私も潜り込んだ。 大分県では別府空港の滑走路の外れの草むらの中でテントを張った。真上を飛行機がテントすれすれに飛行していた。   彼は、大学の山岳会所属だった。私は自己流の登山者だったが、山で危険が予想されるときの引き時を教えてくれたのは彼であった。

私は若いころから、幾日も幾日も果てしなく旅をすることを夢見ていた。檀ほどではないが、そして先輩ほどではないが「天然の旅情」が歳をとった今は懐かしい。私も、軽いADHDなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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