銅板を腐食させる
2022年11月3日
蝕(むしば)む、というテーマで写真を撮っています。銅板を腐食(蝕)するために電気分解を利用して、銅板を穴だらけにする実験をしています。この原理は金属メッキにも利用されます。(+)と(ー)の電極は、銅のプレート(銅板)を使いました。銅板は厚さ0.5mm、10cm×8cm位です。バットを2%の水酸化カリウム(KOH)の水溶液で満たし、直流電源で電流を流しました。電流が0.3A(この写真では 0.287A)位になるよう、直列する抵抗を調節しました。左側の赤い線が繋いである電極はプラス(+)極、右の細く黒い線が繋いである電極はマイナス(-)極です。
通電してすぐに、+極(左)に酸素ガスが、―極(右)に水素ガスが発生し、泡立って白く見えます。発生するガス量は酸素ガスが1に対し、水素ガスが2です。水は H2Oですよね。
電極を引きあげてみました。+ 極(左側)は銅が溶解しているはずで、通電前と同じ色です。-極(右)の銅板は黒ずんできました。本来ですとメッキ反応が起き、きれいな銅色に変わるはずですが、不純物が多いせいか黒ずんでいます、溶解液は不純物のせいか、酸化銅が沈着して黒っぽく変色してきました。
それぞれの電極で起こる反応を示します。 銅 Cu 、 銅イオン Cu⁺⁺ 、 水素イオン H ⁺ 水酸基イオン OH- 電子 e- とします。(フォントが見つからないので失礼します)
(-)極側では、2H2O+ 2e⁻ → H2 + 2OH⁻ Cu⁺⁺ + 2e⁻ → Cu 2価の銅イオンが電子を受けて、銅Cu が析出(メッキ)します。還元反応で、極はカソードです。
(+)極側では、2H2O → O2 + 4H⁺ + 4e⁻ Cu —2 e⁻ → Cu⁺⁺ (または、Cu →Cu⁺⁺+2 e⁻ ) 銅から電子が2つ取れて、2価の銅イオンができたので、ここでは酸化反応です。酸化反応を起こす極は化学(物理)ではアノードと呼びます。(実は、この化学式の記載、自分でも良く分からないのです。YouTubeの高校化学、電検の試験解説に詳しいので、そちらを見て下さい)
上記の装置で1日通電してみましたが、銅板には全く変化がありませんでした。下の装置を作ってみました。
装置をプラスチックのケースに沈め、両端の銅板に—、真ん中の銅板に+の電気を加えました。
電流を1.7Aにして通電開始です。果たしてどうなることやら・・・・・・?
約1週間、通電を続けました。KOHの水溶液は、ただ水が電気分解されて酸素ガスと水素ガスになるだけで、銅板には全く変化がありません。いろいろ考えてみました。KOH水溶液の中で銅板で出来た電極に通電しても、CuとKを置換するには膨大なエネルギーが必要だと思います。それだけのエネルギーを加えても、そのエネルギーは水の電気分解に使われるだけです。しかも、水溶液中の銅イオン(Cu⁺⁺)はすぐに電解液中のK+と置き換わって、両方の電極(—>+)に沈着してまうでしょう。
KOHの水溶液は強アルカリで、Cuを引きはがすには強力な陰イオンが必要だと気付き、電解液に10%希硫酸を加えました。少量の希硫酸を加えるとものすごい泡ができ、刺激臭で鼻腔と目が痛くなります。亜硫酸ガス(SO2)が出ているようで、換気して再び通電しました。(亜硫酸ガスは有毒で、大量のガスを吸うと死に至ることもあります)
通電してすぐに、電解質液中の銅化合物が析出して、+極に沈着しました。第1硫化銅か第2硫化銅だと思います。硫化銅は水にあまり溶けませんが、水和物は水溶性で銅メッキの電解液になります。硫化銅は電位的には陰性でああり、+の電極に沈着する理由が分かります。たとえ+極に硫化銅が沈着しても、銅は電子の働きで水溶液に溶けていくと思います。
希硫酸を加えて、通電しました。たった 1日でこのようになってしまいました。大成功です。
電解液に希硫酸を少し加えて、余った銅板で再チャレンジっしました。夕方から通電して翌朝見たらこの通り・・・、 やりすぎでした。ここで、気付いたことは。銅板の腐食は通電端子から遠いところの方が激しい。です。電子は(-)の電位を持つから、2つ電子があれば互いに反発しあいます。だから電子は導電体の遠いところほど多く流れます。電線を流れる電流は周囲の方が多いです。高電力の送電ではアルミニウムの電線が使われますが、変電所の中の送電は中空のアルミの筒が使われます。
話を戻します。結論を言うと、電解液は硫酸銅(硫化第1銅、硫化第2銅)でした。硫酸銅は単体では水に難溶性ですが、6水和物が市販されています。硫酸銅は昔から毒物に指定されてきましたが、近年はその縛りが外れました。銅はヒトにとっては(微量)必須元素です。銅はセルロプラスミンの原料で、セルロプラスミンはヘモグロビンの合成に必要です。不足すると貧血になります。逆に、ウイルソン病は体内で銅が貯まる病気です。
この項、これで終了です。