徒然なるままに 76. チッソと水俣病の歴史 その3 カルシウム・カーバイド
2024年7月23日
今回は、化学の勉強です。頭の体操をしてください。
水俣湾(不知火海 ) でメチル水銀脳症(水俣病)が発生していた当時は、チッソ(株)ではカルシウム・カーバイド (炭化カルシウム) を生産していた。
以下、カルシウム・カーバイドの話です。
一般的には炭化カルシウム (CaC2) はカーバイドと呼ばれるが、カーバイドと名着く物質はカルシウム・カーバイドだけではない。そのことは後で話す。カルシウム・カーバイド CaC2 に水を滴下するとアセチレン (C2H2) ができ、アセチレンは水銀触媒の下で、アセトアルデヒドに変わる。このことはすでに述べた。 懐かしいアセチレン灯の話だ。容器に入れたカルシウム・カーバイドに水を滴下して、できたアセチレン・ガスに火をつけて灯火にした。お祭りの夜店の屋台の灯火はこれである。ほのかにアルコール臭があり、子供心に芳香を感じたものだ。 田舎ではアセチレンの爆音機が使われる。容器の中のアセチレンガスの圧力がある程度に達すると、自動着火装置が作動して爆音を発する。リンゴ畑を歩いていて、突然の大爆音に驚いたものである。最近は、農家でも自粛しているようで有り難い。 アセチレンガスと酸素の混合気に点火して高温の炎を得る。これは溶接に使われた。今は電気溶接に替わったので、アセチレンと酸素の入ったボンベを目にすることはなくなった。 アセチレン・ガスは、我々にお馴染みの気体であった。
アセチレンは石炭から作られるが、エチレンは石油 (ナフサ) から容易に生成される。エチレンの2つの炭素は2重結合である。天然ガスの中には大量にエチレンが含まれていて、エチレンからアセトアルデヒドを生成する方法はワッカー法と呼ばれる。合成の触媒は塩化パラジウム、塩化銅である。この方法は水銀触媒を使わないので、環境にやさしい。エチレンからアセトアルデヒドを生産する方法は世界的に使われている。 そのようなわけで、不知火海では水俣病の発生原因のメチル水銀の排出は治ったが、水俣湾に溜まったヘドロの中には大量の有機水銀が含まれていたので、漁業に関するダメージは大きかった。水俣病で死に至らなかった患者も、一度侵かされた脳神経組織の障害は不可逆的だったので、水俣病問題はその後も長期間解決されないまま現在に至っている。
この辺から、理論科学の話に舵を切ろう。ちょっと難しいかも・・・・・
カルシウム・カーバイドとアセチレンの分子式を見て欲しい。炭素 C が2つあるが、三重結合で結ばれている。共有結合には単結合、2重結合、3重結合がある。原子間の結合にはいろいろあるが、(例えば、イオン結合、配位結合、金属結合など)、共有結合が最も強い。
ここから、共有結合のこと
ここに上げた元素群の外核の電子は8個のとき一番安定する。外核の電子数は18族が8個で、一番ずつ若くなるに従い、7 6 5個・・・と少なくなる。14族の炭素 C やケイ素 S i の外核電子は 4 個で、安定するには4個足りない。足りない電子を相手から借りてくることを想定すれば、不足する電子数を4本の手と考えると良く分かるだろう。
たまたま、Web.site に簡単な図が載っていたので、利用させて貰おう。炭酸ガスの構造式と、共有結合の説枚図である。 Oの外核電子数(緑)は6、C は4である。2つの元素が安定化するには、Cは4本、Oは2本の手が必要である。C と O の化合物の 炭酸ガスは共有結合で出来ている。両端の O は2つずつ電子が足りないので、真ん中の C から 2 個ずつ電子を借りてくる。一方、真ん中の C は、4本手が足りないから、両端の O から 2本ずつ電子を共有する。(四角内の4個の電子が共有電子である) これで、外核が8個の安定した分子ができる。だから、CO2は非常に安定していて、分解されにくい。地球温暖化の原因になる所以である。CO2を利用(分解、再利用)できるのは、葉緑素を持った植物体だけである。ここでは光をエネルギーとして、光合成が行われる。
炭素 C 、ケイ素 S i 原子の模式図である。炭素とケイ素は周期律表 第 14 族の元素だから、手を4本持つ(4価)。おおよそ、左のような形をしていて、4本の手はそれぞれが 120 度づつ開いている。書き直せば、正4面体の4隅に共有電子を持つ図形(右の図)が分かりやすいだろう。
ここからは、シリコン・カーバイドの話である。 シリコン・カーバイド(炭化ケイ素 Si C ) の構造は、C の 4 隅の1端と 、S i の4隅 の1 端が交互に共有結合で結ばれている。 この図では書ききれなかったので、C と S i の手がが空っぽのところは、C には S i が、S i には C が付く。この構造が前後、左右、上下に無限に延びている。S i C は結晶構造をしているので、とても安定していて、火にも熱にも強い。
シリコン・カーバイドは、大電力をスィッチングできる夢のトランジスターの素材だ。通常のトランジスターの基盤は、ケイ素 (Si) で出来ている。以前よく使われたゲルマニウム (Ge) よりは熱に強いが、それでも今後期待される大電力のスィッチングには強度が不足している。誤って、Si基板のトランジスターに大電流を流すと、瞬く間にに破壊される。 (真空管なら数十秒のタイムラグがあるので、そのあいだに誤りに気付く) 私など、素人のアンプ製作者は、ちょっと間違えてっ回路をショートさせただけで、大事なトランジスターを壊すことはざらだ。数千円のトランジスターが、あっという間に熱も煙も出さずに、お釈迦になってしまうのは悔しい。
その点、シリコン・カーバイド ( Si C) 基盤のトランジスターは丈夫だ。と言うことは、大電力をスィッチできるから、これから迎える大電力再生可能エネルギーの利用に期待できる。夢の素材と言われる所以だ。このように、SiCは熱に強いのだが、厚みを持った大きな結晶を作ることが困難であった。それが、日本の研究社が解決した。 C と Si を蒸発させて、それに電荷をもたる。電荷を持った C と S iを 重力に逆らうように、上方に置いた小さなSiCの結晶にぶつけると、結晶は徐々に広く、暑く広がり、 C と Si の結晶構造ができる。これが、シリコン・カーバイドの単一結晶である。非常に硬く、融点も高い。シリコンの持つ4本の手と、炭素の持つ4本の手が交互に結ばれているからだ。
SiC を基盤に持つ、トランジスターである。私は、このトランジスタ―で、アンプを組んだ。とても丈夫で音も良い。 ROHM 社製 SiC Mos-FET STC208KE 1個 3,000円は高いか安いか?
最後に、炭素の同素体のことである。ダイアモンドは4価の炭素が立体的に共有結合で結ばれていて、非常に硬くて熱に強い。 最近、人工的に小さなダイモンドの結晶を作ることができるようになったが、大きな結晶はまだ出来ていない。 先に述べた炭化ケイ素は、ダイアモンドと同じで、4価同志の炭素とケイ素が立体的に共有結合しているので、如何に硬くて熱に強いか想像がつく。
炭素の同素体の一つの黒鉛 (カーボングラファイト)は、3価の炭素が面内で共有結合している。層的にはファンデルワース力(万有引力)で引きあっているだけなので、薄くはがれやすい。 そして、ニューカーボンファミリーはサッカーボー状に集合している。この仲間には、フラーレン、カーボンナノファイバー、カルビンがある。今後、この分野の開発、利用が期待される。 カルシウム・カーバイドから範囲を広げ過ぎてすみません。分かりにくかったかなあ。