私の本の読み方 32. ブレインフォグ
2024年10月24日
「ブレインフォグを治す」 川上智史著 ブレインフォグは「脳の霧」という意味です。経験者なら「あっ、あれか!」とすぐに納得できる、うまい言い回しです。ブレインフォグは最近になって COVID-19、慢性疲労症候群、鬱病、更年期障害、等と関連あることが分ってきました。発症の原因が明らかになってきたので、関心を持ってこの本を読みました。
ブレインフォグの原因は、脳内の神経伝達性の低下です。ひとつ目はシナプスでの伝導低下(右図) です。例えば、うつ病では神経伝達物質が減少します。神経伝達物質はアアセチルコリン、ドパミン、セロトニンなどです。鬱病の治療これらの物質を増やす薬が使われます。うつ病を治すとブレインフォグも治ってきます。
もう一つの原因は神経伝導速度の遅延です。本文を読むと、「神経伝達は跳躍伝導でスピードをあげているが、オリゴデンドロサイトが障害された結果、ミエリン鞘の働きである絶縁機能が障害され、伝導遅延が起こる」と書いてあります。跳躍伝導については、実験室ブログ・本の読み方、ひとつ前の「脳は何歳でも・・」でもキーワードの一つになっています。「脳は・・」の著者も「ブレインフォグ・・」の著者も、脳生理学の基礎が分かっていないせいか、説明文を読んでもよく理解できません。 (そして、細かいことですが「・・・伝導遅延が起こる」とありますが、正確には「弱い信号は脱落する」です。神経の伝導速度は光と同じです。伝導遅延があるとすると、ランビエ絞輪における反応性の低下に伴う伝導遅延が考えられなくはないが・・・・・) 理由は以下を読んでください。
私が理解している、跳躍伝導の仕組みを解説するので、難しいかも知れませんが読んで下さい。神経には有髄神経と無髄神経があります。有髄神経と無髄神経は体内の適材適所で使い分けられています。有髄神経はミエリン鞘がある部分と、ミエリン鞘がないランビエ絞輪が交互に出現しています(左の図)。 神経(軸索) は信号を伝達する組織ですが、電気信号を伝える物理的な働きと、イオン(Na,K) の出入りで膜電位を0から-に変化させる生化学的な 働きの部分があります。
神経の動作のひとつ目は、電気的(物理的)な働きです。神経線維が脳(体)内に張り巡らされている姿を、電線を地中に埋めてある状況だと思ってください。裸の電線を土中に埋めて電気信号を流すと、漏電(ショート)して信号は消失してしまいます。そのためには電線の周囲をビニールで被覆して、つまり絶縁して漏電を防ぎます。神経線維も物理的な役割としては電線と同じで、裸の状態で体内を巡っている神経線維の周りを、絶縁してやる必要があります。有髄神経の絶縁作用はミエリン鞘の働きによります。電気が伝わるスピードは高速(30万キロ/秒)なので、ミエリン鞘で覆われている軸索での信号伝達速度は限りなく高速です。ただし、有髄神経のミエリン鞘の絶縁作用は、電線の被覆のビニールほど完璧ではないので、長い神経線維の中を信号が通っていくうちに、信号が弱まって(減衰)しまいます。
一方、神経細胞の突起である神経線維(軸索)の中は、細胞内液が入っていています。そして神経繊維は薄いリン脂質の細胞膜で覆われています。神経繊維は飛び飛びにミエリン鞘で覆われていて、ミエリン鞘で覆われていな部分は、外界と直接接していて、それをランビエ絞輪と呼びます。ランビエ絞輪の部分では、ミエリン鞘を欠くため神経繊維は剥き出しになっています。軸索に信号が伝わってきていないとき(静止時)は、細胞内液はカリウム(K)イオン濃度が高く、細胞(神経)内は細胞外と比較してプラスの電気を帯びます。静止時に細胞内のKイオン濃度が高いのは、リン脂質でできた細胞膜が能動的にKを細胞内に取り込んでいるからです。神経細胞に電気的な信号が伝わると(動作時)、細胞膜の透過性が一時的に高まり、細胞内のKが細胞外に漏出して、 K 濃度が低下します。静止時の膜電位を0Vとすると、動作時の膜電位は大きくマイナス(-)に傾きます。この動作で入力信号より出力信号が大きくなり(増幅され)ます。有髄神経ではミエリン鞘で覆われた部分と、むき出しで細胞外液と接しているランビエ絞輪ば交互に現れるから、伝導→増幅→伝導→増幅→〃→〃→〃→ の様式がなりたちます。 この伝導形態を跳躍伝導と呼ぶのですが、私は「リレー伝導」と呼ぶ方がふさわしいと思います。この伝達形式は、海底ケーブルの通信や、人工衛星を使った通信に応用されています。跳躍伝導ではミエリン鞘で覆われている軸索の部分を飛び越して、ランビエ絞輪とランビエ絞輪をスキップしながら伝導するイメージがありますが、実際にはミエリン鞘を持つ軸索の中での電気信号は高速で通り抜けているのです。 この段落での結論は「神経細胞から出た信号はランビエ絞輪で増幅されて、次のランビエ絞輪に伝えられる。ランビエ絞輪と次のランビエ絞輪との通信は軸索による」です。「ランビエ絞輪での信号処理に関し、神経細胞はリン脂質の膜に覆われていて、Kイオンをエネルギーを使って細胞外から取り込んでいる。この状態を「分極」と呼びます。上から信号が来ると膜の透過性が亢進して、Kイオンが細胞外に漏れ分極状態が壊れる(脱分極)。その電位の変化が信号として現われる。言い換えれば「伸ばしたゴムひもの手を放し、パチンとゴム紐が縮むことで、信号が生まれる」最後に「ミエリン鞘を纏った軸索は電線、ランビエ絞輪は増幅器」です。
ブレインフォグの原因は、ミエリン鞘の炎症で絶縁機能が失われるためであり、また、シナプスでの神経伝達物質が不足するためです。ブレインフォグの治療方法は、この本でもいろいろ書いてありましたが、決まり手はサプリの服用と書いてありました。それが、「プラズマローゲン+イチョウ葉エキス」だそうです。如何にも嘘っぽいですね。結局、この本も、いんちきサプリのメーカーの宣伝本でした。 本を読むときは、誤った情報の有無を見分けるリテラシイーが必要です。私が考える治療法は、「あきらめる事」です。気にするといつも頭に霧がかかっているように感じるから、頭の状態を観察しないこと。忘れる事」に尽きます。「もし頭に霧がかかっていたら、過去の状態と比べないこと、霧が有っても何も心配がないと思うこと」です。ミエリン鞘の炎症も、シナプスでの神経伝達物質の不足も、脳の使い方次第で回復します。脳に霧を感じたらスクワットを10回ほどやるとすっきりします。人間の体には自然治癒力が備なわっています。
ミエリン鞘の炎症、シナプスでの伝達物質の現象を、器質的あるいは機能的変化のどちらか?の答えは微妙ですが、脳の病気が思考のチェンジで回復するのは不思議です。