私の本の読み方 15.雪の国 移住日記 夢と一生 八月の御所グラウンド スピノザの診察室
2024年3月6日
「雪の国 移住日記 ブナの森辺に暮らす」 星野秀樹著 週刊誌(AERA))の誌上、「ご当地書籍・長野県の項」で紹介されていたので読んだ。読むというよりこの本は写真集でもあるのだが、プロの写真家でもある著者の写真が良かった。 ブナだの雪国だのと言うと、やたらと芸術っぽい写真が目に付くのだが、この本の写真は生活臭が垣間見えて心が休まった。本の紹介を見たとき、ひょっとしたら飯山市の鍋倉山山麓に移住した記録ではないかと思ったが、その通りだった。飯山市岡山の羽広山集落に神奈川県から家族ぐるみで移住する。長男を長野市の高校に通わせ、下の子を地元のスキークラブに通わせ、本人は集落の整備、祭祀、消防団活動に携わる。作業が終われば皆で酒を飲みおお騒ぎする。都会からの移住者は、地元住民との折り合いが悪く孤立しがちだが、この著者はそうではないようだ。そして時間が空けば、鍋倉山に踏み入って幕営したり写真を撮る。その生活ぶりが楽しい。
実は、私も若いころ羽広山の古民家を買って、そこに住むことを考えたことがある。働けるうちは別荘がわりに使い、年を取ったら住み着こうか? いやいや、この本を読んで古民家を買わなくてよかった。大雪の中で、年寄りが生活するなどはできるものではない。 それにしても、私は30年位前の約10年間は、羽広山や鍋倉山に足しげく通っていたので、その頃を思い出して懐かしかった。
「夢と一生」 渡辺京二著 河合ブックレット42 私が渡辺京二を知ったのは「黒船前夜」であり、その後「逝きし陽の面影」で感銘を受けた。(その後で読んだ「バテレンの世紀」は良く分からなかった) 最近は、石牟礼道子の最晩年をみとった文化人として知られる。渡辺は河合文化教育研究所に所属して河合塾九州校で教えていた。渡辺の思想につながる生活ぶりが垣間見えて、興味深かった。
私は大学受験のとき駿台予備校に通った。予備校の講師はみんなではないが、先生たちは人生や哲学を語ってくれて楽しかった。浪人生活もまんざらでないと思ったが、渡辺もそんな講師だったのだろう。
「八月の御所グラウンド」万城目学著 NHK AM] 第1放送で面白いよ、と紹介されていたので読んだ。ハードカバーで、この中に2編の小説が載っている。1編目は「十二月の都大路上下(カケ)ル」で、女子高校駅伝の話である。下位校ではあるが、補欠候補の1年生がアンカーに抜擢され、たまたまライバルになった相手高校の選手との間に交わされる友情を描いている。最後にちょっと眼がしらが熱くなったった。⒉編目が「八月の御所・・・」である。現世では9人の選手がそろわない草野球チームに、3人の戦争中に野球をやっていた選手の亡霊が出てきて野球をやる話である。中国から来た女性の留学生と主人公は全くの野球音痴で、そのドタバタぶりも楽しい。何試合果は勝つが、最後の一つ手前の試合では負ける。それでも、3人の亡霊は楽しそうである。とにかく野球をやりたくて仕方がないのである。二つの話に共通するのは、スポーツは楽しくなければ、意味がないということである。いまスポーツ界の不祥事では、しごき、体罰、選手間の暴力、大麻・・・、枚挙のいとまもない。「楽しくなければスポーツではない」ことを知らない輩(やから)にこの本を読ませたい。
「スピノザの診察室」草川草介著 著者は消化器内科、特に内視鏡検査(処置)の専門医である。作家デビューは「神様のカルテ」で、これは映画にもなった。この本も、場面設定は前作とよく似ている。(ほかにも何作かの小説を書いているが) どうも、この手の本は背中をくすぐられているようで苦手だ。特に本の帯で「願わくば人生の最期にこんなお医者さんに巡り合いたい」などと書かれると、俺にはできないよなあ・・・と、なってしまう。医者の悪い癖で、同業者が書いた小説にけちを付けたくなるのをお許し頂きたい。 その1 内視鏡処置の場面で、実臨床ではあり得ないシチュエーションで書かれていること。話を面白くするために無理している印象がある。 その2 法医学的な解釈がちょっとおかしい。 どちらも、けちを付けた私の方が間違っているかも知れないので、あまり人を批判するのはよそう。