徒然なるままに 42.凍結乾燥の話
2024年4月16日
先日、スーパーで「凍み豆腐の棚はどこ?」と聞いたら、きょとんとされました。長野県では昔から凍み豆腐と呼ばれていたのですが、全国的には凍り豆腐とか高野豆腐と呼ばれるのが一般的なようです。凍み豆腐は生の豆腐を凍結させて、それを日光にさらして乾燥させました。寒天も同じように作られ、いずれも諏訪や茅野の寒天はこの地方の名産です。なまの寒天やとオフは低温にさらすと、中野づ位分だけ凍結し、固形成分だけ凍らずに残って、スポンジみたいになります。冷蔵庫で温度設定を間違えると、豆腐はスポンジになってしまいます。
同じ理由で、粉末ジュースやスキムミルクは凍結乾燥の原理を利用して、溶液の粉末を作るのです。私の大学時代、血液の凝固、線溶現象の研究をしていました。透析廃液の中の成分を粉末にする必要があるときは、溶液を凍結乾燥させて粉末を得ていました。初めに、溶液を凍らせる必要があります。冷却用の冷媒はアセトンの中にドライアイスを入れて作ります。ドライアイスがブクブク白い煙を出しながら、アセトン液はぐんぐん冷えていきます。ものすごく低温になるので、絶対に指を入れてはなりません。フラスコの中に溶液入れて、フラスコの球状の部分をアセトンの溶液のなかに沈めてぐるっと回すと、中の溶液は面白いように凍結して内面が氷で覆われます。この状態でフラスコの首に真空ポンプに装着し、ポンプを作動させます。面白いのはこれからです。「フラスコを室温に置いたらフラスコの中の氷は解けてしまうのでは?」と思うかも知れませんが、そうではないのです 。氷を真空の状態に置くと中の氷が水蒸気に変わり、そのとき昇華熱を奪うため氷本体が冷やされます。だからフラスコの中は常に低温(氷)に保たれるのです。大気圧の下で水を沸かせば、お湯は100℃以上にはならないのと同じようなことです。液体や固体が気体になるとき、気化熱や昇華熱を奪うからです。(固体が気体になるのが昇華、液体が気体になるのは気化で、いずれも熱を奪います)
凍結乾燥は意外に時間がかかります。溶液の量にもよりますが、真空ポンプを装着して一昼夜はかかります。前日真空ポンプを装着し、翌朝行って見たらフラスコの底に粉末が貯まっていた・・・、そんな感じです。粉末のジュースや、粉末の調味料、粉ミルク、全てこの方法で作ります。今の凍み豆腐は(寒天も?)凍結乾燥品でしょう。以前は、ローカルニュースで諏訪の寒天づくりを紹介していましたが、温暖化のせいかあまり聞かなくなりました。寒天自体は和菓子(羊羹など)が存在する限り、消えないと思います。それと、今は寒天自体が四角柱でなくなって、ゼラチンみたいな粉末になっているのでしょうか? スーパーに行けば売っているかも?
液体を気化させれば気体になるのだから、わざわざ凍らせなくても・・・ 残念ながらそれはできません。コーヒーを温めようとして電子レンジで温めたら、暖め過ぎてコーヒーが沸騰して、カップの中が空っぽ・・・と言う経験をしたことがあるでしょう。これは突沸(とっぷつ)と言う現象で、1気圧の下では水は100℃で沸騰(突沸)します。 水(液体)は真空(0気圧)の下では室温でも沸騰(突沸)します。大事な溶液があと方なく霧散してしまいます。
昇華の現象は、樟脳やナフタリンを衣装箱に入れておくと、自然に小さくなるのと同じです。氷点下でも雪や氷は強い風が吹くと消えます。解けなくても消えるのです。これも昇華です。 逆に水蒸気が雨や霧にならず、いきなり雪や霜になるのは凝結反応です。
以下は、関連事項を羅列しました。参考までに、 1)日本海から湿った風が吹きつける真冬の高山では、水は液体(霧)の状態です。霧は何かにぶつかると瞬間的に凍ります。これはエビの尻尾や霧氷で、それが成長するとスノーモンスター(樹氷)になります。 2)余談ですが、エビの尻尾は風上に向かって伸びます。風上から飛んできた霧が何かに当たると瞬間的に凍るからです。 3)樹氷はオオシラビソ(別名アオモリトドマツ)の木でしか育ちません。他の針葉樹だと少し気温が上がると氷が剥がれ落ちてしまいます。オオシラビソは樹氷を纏うことで寒気から守られます。だから、標高の高いところでは、オオシラビソしか育ちません。4)水蒸気は気温が下がると霧になります。霧は氷点下の気温でも氷ではなく水滴です。氷点下でも液体の状態でいる現象を過冷却と呼びます。5)雲は水滴(霧)の場合と、氷の粒の場合の両方があります。夏場や高度が低い雲は霧のことが多く、空にある丸い太陽の形が見えません。引き換え、冬や高度の高い雲は太陽の光を通すので、雲の向こうに太陽が丸く透けて見えます。