健康と食品
2024年9月8日
以下は私が産業医をやっている会社の、健康講話で使った資料です。テーマは「健康食品、サプリメントの話し」です。簡単な解説を加えてみました。画象は最初だけで、後は文章にしました。お断り:特定保健用食品 届出 あり です。作り直すの、面倒なので暫くこのままにさせて下さい。
最近、紅麴の健康被害が話題になりました。紅麹は普段私たちが食べる麹とは別種の菌類で、沖縄の「豆腐よう」は紅麹です。健康食品は、認可の要否、届け出の要否別に、三段階の表示がされます。これを統括する省庁は消費者庁で、厚生労働省ではありません。したがって、これらの食品を摂ったからと言って、健康を保証するものではありません。 はやい話が、これらの表示のある食品は、表示のない食品にくらべて付加価値が上がって、価格が高いだけとも言えます。スーパーで比べてみると、同じ品物でもこれらの表示がある製品の方が、価格は高い印象です。 かといって、全く無意味かと言うとそうでもなさそうです。中国に「医食同源」と言うことわざがります。「すべての食品は人の健康維持に役立っている」と言うことは、「食品も薬」だということです。例えば、冬体を温める食品は冬の野菜、おもに根菜類です。特にショウガは体を温めます。逆に夏に暑くなった体を冷やす野菜は、キュウリなどの夏野菜です。人は、季節に合った食品を摂って来ました。
サプリメントの語源は、supply (供給する、補充する) です。したがって、サプリメントは普段の食事で不足しがちな成分を補います。サプリメントは、健康を増進させるものではありません。サプリメントを何種類も摂ることより、いろいろな食品を満遍なく摂る方が理にかなっています。
以下、サプリメントとしても良く知られているビタミンから説明します。ビタミンはヒトが生きていくうえで必要不可欠な代謝系の補酵素です。それ自体は代謝に大きな作用を及ぼしませんが、代謝酵素の作用を助ける大事な物質です。しかもヒトの体では合成できないので、食品からしか補えません。ビタミン類は水溶性のものと脂溶性のものに分けられます。水溶性のビタミンは一定量以上体内に蓄積すると、腎から排泄されます。効力を期待して大量に摂取しても意味がありません。その分、沢山摂っても中毒は起こしません。水溶性のビタミンは、B群、C、Kで、脂溶性ビタミンは、A、D、Eです。脂溶性ビタミンは採りすぎると中毒を起こすので、薬で補う時は注意が必要です。
ビタミン A 脂溶性ビタミンで、不足すると夜盲症、皮膚、粘膜の乾燥化を起こします。夜盲症は暗順応の低下によります。食品に含まれる、黄色い色素のβ-カロテンは体内で、有効成分のビタミンAに変わります。
ビタミンB1 体内の代謝(特に糖代謝)を司ります。明治時代の軍隊の食事は、白米だけはたらふく食べられました。日露戦争では、貧しい農村の若者に「白米を食べれるから」と入隊を唆(そそのか)しました。満州の奥地は食物が少なく、日本から運んだ白米だけが唯一の食料でした。兵隊さんは、ビタミンB1が不足して、脚気衝心(かっけしょうしん)と言う病気でバタバタ死にました。作家の森鴎外は階級の高い陸軍の軍医で、正露丸を発明して脚気の兵隊さんに飲ませましたが、誰も治りませんでした。聞くところによれば、戦争で死んだ兵隊さんより、脚気で死んだ兵隊さんの方が多かったそうです。明治の末期になって、日本の鈴木梅太郎が米ぬかの中から、脚気に有効な成分を見つけ、後にそれがビタミンB1(チアミン)であるかとが判明しました。ギリギリ日露戦争には間に合わなかった訳です。 戦国時代、豊臣秀吉は鳥取序を兵糧攻めにした際、白旗をあげて出てきた敗残兵に「ご苦労であった」と言って、白米をたくさん食べさせました。敗残兵の体内にはビタミンB1はわずかしかないので、大量の糖を食べさせると体内のビタミンB1が消費されて、急性の脚気衝心を起こして、全員死んでしまいました。秀吉は、そのことを知っていて、敗残兵の首を切る代わりに病気で殺したのでしょうか。 Web.site 「秀吉の兵糧攻め」 で調べると、 「リフィーディング症候群」 一度に多量の糖を摂取すると、大量のインスリンが分泌され P K Mg が細胞内に取り込まれて、血中の電解質が不足して死亡する・・・、と書いてあります。直接死因はこっちの方かも?
ビタミンB2 はエネルギー代謝を司ります。不足すると口辰、口角,舌炎を起こします。
ビタミンB12 は神経のビタミンです。さらに、ビタミンB12 が不足すると巨赤芽球性の貧血を起こすことで知られます。ビタミン B12 は胃壁から分泌される「内因子」と結合して、小腸で吸収されます。手術で胃を取った人は、巨赤芽球性貧血が起きやすいです。この場合は、ビタミンB12は注射で補給する必要があります。
ビタミンC 水溶性ビタミンで、強い還元作用(抗酸化作用)を持ちます。不足(欠乏)すると、壊血病を起こし、重篤な場合、死に至ります。ビタミンCは新鮮な野菜、果物、新鮮な肉にたくさん含まれます。大航海時代、長期間の船旅では食料のビタミン C の含有量は低下します。ヒトやサルはビタミンCを合成できません。一方、ネズミを含む多くの動物は、体の中でビタミンCを合成できます。長期間の航海で、ヒトがバタバタ死んでいくのに、ネズミは元気よく船倉を飛び回っていたのです。
ビタミンD 大事なビタミンです。骨のカルシウム代謝に関係します。脂溶性ビタミンが不足すると、クル病や骨粗鬆(そしょう)症を起こします。食事で摂取されたビタミンDは人体で活性型のビタミンに変化するので、紫外線に当たる必要があります。東北地方の貧しい農村では、昼間母親が畑仕事に出かけている間、乳児はツズラの中に置かれました。日光に当たらずビタミンDが活性化されずに、乳児の背骨は粗鬆松で背むしになったのです。現代でも日光に当たらないお年寄りは、骨粗鬆症を起こしやすくなります。
ビタミンE 脂溶性ビタミンで、ビタミンC の作用を助け、抗酸化作用があります。抗酸化作用を持つビタミンや物質はたくさんありますが、抗酸化作用とは、動脈硬化や老化を抑制する作用です。普段から、不足しないように心がけたいものです。ビタミンE はほかに、、脂質相互作用、神経細胞の保護作用、動脈硬化を起こす細胞増殖w抑える作用、決勝岩凝集を抑制、のどの作用が報告されています。
ビタミンK 血液凝固に関わるビタミンで、不足すると出血します。緑の野菜、納豆に多く含まれます。大人は腸内細菌がビタミンKを作ってくれますが、生まれたばかりの赤ちゃんは不足しています。母乳にはわずかしか含まれていないので、新生児は脳出血を起こしやすい状態におかれます。産科では新生児にスポイトでビタミンKを飲ませます。 心房細動では心房の中で血栓を起こしやすくなるので、血液凝固を阻害する薬を飲む必要があります。ひところまで、ワルファリン・カリウム(WK)が使われました。いまはDOACと言う薬に変わりました。 WKはビタミンKの作用を阻止するので、血液凝固を阻害します。だから、WKを飲みながら大量のビタミンKを摂取すると、その効果が弱まります。WKを飲んでいる人は、納豆が食べられない所以です。WKを作っている会社は、農薬も作っていました。WKの副作用を研究する段階で、ネズミに大量のWKを飲ませたら、脳出血や眼底出血を起こしました。病気のネズミは目が見えませんが、明るさだけは感じるので、明るいところに出てきてそこで死にます。WKが殺鼠剤として販売されました。普通の殺鼠剤は、ネズミは暗がりの隅っこで死ぬので後が厄介です。ヒトがWKを飲むときは、適正使用量を決めるため、受診の度にプロトロンビン時間を測ります。他に。ビタミンK はカルシウム代謝になんらかの作用を持つらしいです。
亜鉛 不足すると、味覚障害、食欲不振、フレイルの原因になります。牡蠣に多いと聞きました。
鉄、カリウム、カルシウム、マグネシウム 不足しがちなもで、食物できちんと摂りましょう。
ポリフェノール ポリフェノールはフェノール基(ベンゼン環あるいは亀の甲)がいっぱい付いた(ポリ)化合物の総称で、オレウロペイン(オリーブの葉)、フラボノイド(アントシアニン、カテキン、タンニン、ルチン、イソフラボン)、フェノール酸、エラグ酸、リグナン(セサミン) 、クルミン、クマリン ほか、無数にあります。それらは抗酸化作用を持ち、老化を抑制する食品として挙げられます。
以上、私が伝えたい事は、好き嫌いなく満遍なく食べて欲しいということです。
コラーゲン、ヒアルロン酸 医療界ではコラーゲンやヒアルロン酸の飲み薬はありませんが、両者は医学と大いに関係があります。人体は結合組織の集合でできていると言えます。臓器は結合組織でその形を保っています。さらに、臓器と臓器を繋いでいるのも結合組織です。結合組織は膠原(こうげん)繊維(コラーゲン)で出来ています。関節の内面はコラーゲンやヒアルロン酸で覆われています。関節炎を起こすと関節の表面がざらざらになって痛みがでるので、整形外科では関節内にコラーゲンを注射します。 コラーゲン、ゼラチン、コラーゲン・プロテインという物質があります。藁縄(わらなわ)をおもいうかべてください。藁縄は藁束3本をよじったもので、1本の藁束は数本の稲の茎でできています。コラーゲンが藁縄とすると、ゼラチンは藁束、コラーゲンプ・プロテインは一本の稲の茎に相当します。つまり、1単位あたりの分子量が違うのです。 ところで、コラーゲンは膠(にかわ)のことです。動物の皮をぐつぐつ煮ると、膠ができます。だから「煮皮」です。膠は木工の接着剤です。(今は、木工用ボンドで接着しますが・・・) ゼラチンはゼリーの原料です。ゼラチンを温湯に溶かし冷却するとゼリーになります。 コラーゲン・プロテインはサプリメントとして販売されます。3者は分子料の違いだけで、元は同じ物質です。だから、高いお金を出してコラーゲン(・プロテイン)を買うのなら、ゼリーを食べても同じです。そして、コラーゲン・プロテンという位だから、このサプリはタンパク質です。タンパク質は消化管でアミン→アミノ酸に分解されて、体に吸収されます。体内の必要なところで、再びタンパク質に合成されて利用されます。体中がコラーゲンでできている中で、少しばかりコラーゲンの原料を摂取しても焼石に水です。だから、高いお金を出してコラーゲンを買うのはやめましょう。 ちなみに、慢性肝炎や肝硬変で肝臓が傷害されると、肝臓の組織にはコラーゲンやヒアルロン酸が増えて、これらの成分が血中に漏れ出て血中濃度が高まります。