私の本の読み方 31.脳は何歳からでもよみがえる | 市川内科医院のブログ│実験室

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私の本の読み方 31.脳は何歳からでもよみがえる

2024年10月18日

「脳は何歳からでもよみがえる」中冨浩文著 アチーブメント出版  Web.site MSN ニュース  ダイアモンド・ディジタル提供 で紹介してありました。老化 (動脈硬化、組織の酸化など)  を予防する手段がいろいろ書いてありました。記載内容は私が信念にしている「断酒」にも及んでいたので買ってみました。断酒に関しては、この私のブログでもしつこいくらい書きましたが、その説が書いてあって満足しました。酒を飲むと飲まないとでは、死亡率に統計的な優位な差がでるそうです。

著者は世界的にも有名(自称?)な脳外科医らしいです。自分の専門領域に関してはやたらと詳しい(私が馬鹿なのかほとんど理解できなかった*)のに、内科の基礎的な知識が間違っていて、ちぐはぐな本でした。たとえば、ビタミンE (トコフェノール) をポリフェノールだと勘違いしていました。どちらも抗酸化作用を持ち、どちらにもフェノールと言う言葉が付きます。ポリフェノールはフェノール核(亀の甲)を沢山(ポリ)持つ化学物質の総称です。トコフェノールは亀の甲が2つくっ付いた構造をしていますが、ポリフェノールは目がちかちかするぐらい亀の甲が沢山ついています。

全体は3部に分かれています。第1部 知られざる脳 もっとも守られていて、もっとも弱い臓器  第2部 脳を脅かす病を防ぐ  ここまでは、脳が老化しないためには、生活習慣病からくる脳疾患を予防する方法が説かれています。しかし、老化した脳を若返らす方法は何も書かれていません。「看板に偽りあり」です。 いよいよ 第3部 脳を育む  脳神経回路の活性化  です。 これが、またチョンボなのです。「脳を活性化するトレーニング」と称して、頭に複数個の端子をくっ付けた装置で脳波を撮影して、その脳波の周波数成分を解析して、緊張とリラックスの状態を自分でトレーニングする方法が書かれています。それも、1台10万円もしない安装置で!  これ、完全に似非(えせ)科学 !     脳波は非常に微細な信号です。しかも頭蓋は厚くて硬い頭蓋骨で守られています。  微細な電位なら増幅率さえ上げればよいではないか!  ところがどっこい 端子間のインピーダンスが高い(皮膚は電気を伝えにくい)と言う問題がたちはだかるのです。  私たちを取り巻く環境は電磁波で取り囲まれています。端子と装置を繋ぐ電線、あるいは人体には複雑な電位が生じています。 脳波を撮っているつもりが、電波や電線を通る磁力線が作る電位を撮っているのです。そんな雑音を周波数分析したって、全く無意味な信号なのです。普通、脳波を撮影するには電磁波を完全に遮断した(シールドされた)部屋の中で、高精度な脳波計を使って撮影されます。10万円以下の機械で、普通の部屋の中で撮影した脳波では、何もわかりません。

そんな説明文を読んでいたら、この本の最後に「ニューロフィードバックトレーニング」と称して著者が開発した?装置の宣伝が、載っていました。 最後にこの本が、嘘っぱちを宣伝する本である証明として、本文からの抜粋・・・わたしは15年前に世界特許を持つ医療機器を開発しました。神経機能をリアルタイムで見える化できるようにしたのです。  その機器にはモニタリング機能が搭載されていて、直前にどういう手技をしたら成功率が上がったか、下がったのかがグラフで表示されます・・・・・  いかにも、嘘っぱちらしい文ですね。大体、世界特許ってあるんだろうか? 特許って国毎に許可されるんじゃなかったっけ? もしかしたら、国連の中に、世界特許庁ってあるのだろうか?そして、この教授のいる教室に一人ぐらいは電気に詳しい医局員がいるだろうから、誰かチェックしてやれば良いに・・・    私が脳腫瘍になっても、この教授に頭(脳)の手術をしてもらいたくないです。   本当の最後に、こんな本買って読んで損した。ただ、ブログ 1題書けたのはよかった。

*本文から・・・「脳内の細胞は3つに分かれます。ひとつは神経細胞で長い軸索(axon)をもっています。命令を伝える電線だと思ってくださしい。例えば、運動野から手の筋肉に至るまでは1メートルくらいの軸索が出ています。電気信号で命令を伝えるのに、神経細胞の膜であるリン脂質をずっと通電していたら間に合いません。そこで、軸索を部分的に絶縁して、電気信号が飛びぬけ跳躍伝導していく仕組みになっています。二つ目の細胞は軸索の周りにいて、この跳躍伝導する仕組みをつくっている乏突起細胞です。みっつ目がこれら全部を支える大型の細胞(アストロサイト)です。星細胞と乏突起細胞を合わせてグリアと言います」  ・・・・この説明文、分かりますか?  正解は軸索の中で信号を伝えるのは、電子の流れとイオンの流れの2通りなのです。軸索の中と外でイオンが出入りし、その際、生じる電気信号がその先のイオンの出入りを介して信号を伝えるのです。電気信号として1秒に30万キロ進む流れと、イオンの出入りで進んでいく、比較的ゆっくりした流れです。そこで、跳躍伝導と言う仕組みが出来るのです。    跳躍伝導に関しては、この後の「私の本の読み方 32. ブレインフォグ」をご覧ください。

私が、いちゃもんつけているだけと思われてもいけないので、Web.site 調べてみました。脳波はシールドルームといって、銅板で囲まれた部屋で撮ります。頭は徹底的に洗髪します。頭皮に脂肪が残っているだけで正確な脳波は撮れません。Web. には「脳波計の理屈をわかっていないと得られた脳波波形は雑音を測っているだけ」とも書いてありました。この本の著者は怪しげなメーカーの口車に乗って、自分でよく研究(学習)せずに名前を貸したのでしょう。本の中に、「この装置を使って毎日トレーニングをするのは苦痛・・・」みたいなことが書いてありました。そりゃそうでしょう、自分では制御できない雑音波形を指標に脳トレをやったって、時には良い結果が出たり、また同じチャレンジでも悪い結果がでたりするのですから・・・。医学や健康に関して、この類の本が多いので、気をつけてください。

 

 

 

 

 

 

 

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