私の本の読み方 36. ケルト人の夢
2024年11月30日
「ケルト人の夢」マリオ・バルガス=リョサ著 野谷文昭訳 著者は2010年にノーベル賞を受賞した。この本は、新聞の書評特集「虐げられた人々の記録」 を見て読んだ。「面白い」と言っては語弊がある。「凄まじい」とでもいうべきだろう。通低して流れるのは「植民政策」である。主人公はアイルランド人で、イギリスの外交官としてベルギー領コンゴに赴く。そこで見たものはベルギー国王が所有するゴム園での、凄まじい残虐行為である。ゴムの生産量を上げるために、原住民が次々と殺され、集落が一つずつ消失していく。その所の記述は読んでいても気持ちが悪くなるほど残酷だ。主人公はそれらを暴いて本国に戻る。
次に主人公が赴いたのは、イギリスが間接的に支配しているアマゾンである。ここのではゴム園がイギリスの貴族や金持ちの出資で経営されている。そこでもゴム園の経営者が、採算だけの経営方針で原住民を次々と殺していく。コンゴもアマゾンも先進国の植民政策で潤っており、主人公は翻ってアイルランドとイギリスの関係を思うに至る。アイルランドもイギリスの植民地なのだ。
イギリスに戻って2件の残虐行為を暴いた功績で、主人公はイギリス本国の爵位を得る。そして、世界的な有名人として称賛される。そんな中でアイルランドの独立運動の指導者として、人生の舵が徐々に曲がっていく。当時、イギリスはドイツと戦かっていた。アイルランドはイギリスから独立したがっており、半分戦争状態にある。アイルランドの敵はイギリス、イギリスの敵はドイツ、つまり敵の敵は味方と言う訳で主人公はひそかにドイツに向かう。ドイツの協力を得てアイルランド独立を果たそうとするが、ドイツ軍が動かないことを知り急遽アイルランドに戻る。しかし、アイルランド独立派はすでに戦争を開始してしまい、運の悪いことに主人公はイギリス軍に掴まってしまう。捕らえられて絞首刑になるのだが、主人公は刑の執行官が驚くほど落ち着いて執行される。
以上の様な粗筋なのだが、読者を飽きさせない筆致は見事だ。さらに主人公の男同性愛が絡んできて、物語(半分は史述に基づいている)を複雑にしている。総ページ数は 531p、定価3960円(税込み) である。この本は、是非読んで欲しい。(主人公のロジャー・ケースメントは死後暫く忘れられていたが、最近になって徐々に注目されるようになった。その一つの理由に LBBTq に対する理解が進んだこともある)