徒然なるままに 14. いま思うこと | 市川内科医院のブログ│実験室

長野県中野市三好町1-2-10 TEL:0269-22-3366 長野電鉄長野線「信州中野」駅 徒歩6分

タイトル背景

実験室市川内科医院のブログ

▼ MENU

徒然なるままに 14. いま思うこと

2023年6月24日

1.スキーのビンディング : 滋彦の山のトラブルで、山スキーで転倒した際、下腿骨折で遭難したことを書きました。ビンディングがセイフティーだったら、あんなことにならなかったと思います。そんな訳で、ビンディングのことを書きます。 下の写真はアルペンスキーのビンディングで、左がつま先側、右が踵(かかと)です。このスキーは踵が上がるか、足裏全体が左右に捻転する時、解放されます。つま先が上がる状態では、人体の構造で膝関節が曲がるから安全です。今のビンディングは全方向に外れるので、セイフティー・ビンディングと呼ばれる由縁です。昔のビンディングはカンダハと言うタイプで、つま先も踵も固定されていました。転倒すると骨折の危険が常にありました。

 

滋彦が岩菅山で遭難したときは、山スキーのビンディングでした。踵に前方向に無理な力がかかった時だけ開放される代物でした。ねじれ回転でつま先あるいは踵が解放されなかったので、下腿の2本の骨(脛骨と腓骨)が折れました。今は安全な山スキーのビンディングがあります。

 

 

2. アニサキス : 下の図は朝日新聞の切り抜きです。これまでに線虫のことを2回取り上げてきましたが、アニサキスのことをれていました。

「こたえ」を読むと、アニサキスの全ゲノム解析は済んだのですね。線虫の原稿を書いたとき、使った教科書「人体寄生虫学提要」では、線虫の項目にアニサキスは出ていませんでした。しかし今思い出してみると、実習でアニサキスを観察した記憶があります。昭和42年頃でした。教官がスーパーマーケットから近海産の生のサバ(鯖)を買ってきて、実験台においてありました。腹を開いたら、腹腔に多数のアニサキスがへばりついていました。長さ2から3センチほどだったと思います。気持ち悪かったなあ。「もう、絶対の生サバは食べないぞ」と、心に誓いました。サバはアニサキスの中間宿主で、最終宿主はクジラ(クジラ)です。実習が済んだら教官が「家に持ち帰って、煮て食べても良い」と言っていましたが、誰も持ち帰って人はいませんでした。

アニサキス症は生きたアニサキスを飲み込むと、胃壁に食らいついて発症します。激烈な腹痛で、七転八倒します。ただ、食いつかれただけでそんな激痛がおこる訳では無いようです。今回の感染の前に一度は感染を受けていて、アニサキスに対してアレルギーが成立している必要があります。サバやイカの生食は危ないので、必ず火を通して食べた方が安全です。酢サバにして、一晩ぐらいシメてもアニサキスは生きています。アニサキス症は少なくとも2回は魚の生食をしたことになります。一度食べて何ともなかったからと、同じことを繰り返すのは危険です。イカ(スルメイカ)にもアニサキスがいます。イカ刺しを食べる時は、よく透かしてアニサキスがいないか確認してください。

3. 期限切れのフィルム : 先日の信毎に「期限切れのネガ・カラーフィルムを安価で販売します」との記事が出ていました。それによると「期限切れのフィルムを1本500円で売ります。期限切れのフィルムで写真を撮ると思いがけない発色になり、それはそれで味があるので、是非使ってみてください」だそうです。今は、デジタルカメラの時代で、期限切れのフィルムが沢山余ってしまったのでしょう。それを、うまいことを言って新聞社に売り込んだのでしょう。味のある画像にしたければ、今は画像処理ソフトでいくらでも好きな画像を作ることができます。わざわざ、期限切れのフィルムを使って、ひどい色の写真を作ることはばかげています。

以下、私の経験です。ずっと前のことです。南アルプスの山を縦走中に手持ちのフィルムを使い切ってしまいました。山小屋に聞いてみたら、フィルムが置いてありませんでした。近くにいた登山者が「少し期限が切れているけど、売ってあげる」と言って、正価で売ってくれました。よく見たら5年も前に期限が切れた代物でした。黙って受け取って撮影して現像したら、色は青被りしていて色彩濃度も低く、全く使い物になりませんでした。期限切れでも、冷蔵庫に入れて保存すれば2~3年なら問題ないのですが・・・・古いフィルムは、勿体ながっていないで捨てるべきです。食品なら、賞味期限を一日でも過ぎれば、捨てるのに。4. ハンニバルのアルプス越え :  「ガリバー旅行記」の中で、ガリバーは過去の偉人に会えると聞き、ハンニバルを指名しました。そこのシーンを記載します。「次に、アルプスを越える最中のハンニバルに会いましたが、わが陣営には一滴の巣もないと言っていました。」つまり、ハンニバルは手持ちの酢を全部使い切ってしまったということでしょう。脚注では「カルタゴの将軍ハンニバル(紀元前247ころ―183)といえばアルプス越えで知られるが、歴史家リウィウスの『ローマ建国史』によれば、アルプスで行く手を拒む岩石を熱し、次に酢をかけて溶かしたという。・・・」  この話は、眉唾だと思われるかもしれませんが、歴史的な事実はともかく、科学的に説明できるのです。

4.ハンニバルのアルプス越えの話    ハンニバルの軍隊がアルプスの谷間を進軍中、崖崩れが起きて行く手を阻まれた。ハンニバルは森の木を切って燃やし、持ってきた酢を岩にかけたら、岩が溶けた。そんな話です。当時の軍隊は、兵士の勇気を鼓舞するために、あるいは食料にするために酢が必要だったらしいです。突撃開始! その前に兵士に酢を飲ませました。アルコールでも良いのですが、酔っ払うと戦にならないので、アルコールの代謝物の酢を飲ませるのは理にかなっています。現代なら、さしずめ「黒酢」でしょうか?

崩れた岩は石灰岩(あるいは大理石)でした。石灰岩に酢酸をかけると岩は溶けます。まさか!と思われるかもしれませんが、それは事実です。実は、私は石灰岩に酢酸の代わりに塩酸をかけたことがありました。ブクブクと泡が出て、石化岩は跡形もなく溶けてしまいました。石灰岩は、炭酸カルシウムです。炭酸カルシウムCaCO3+塩酸HCl→二酸化炭素(炭酸ガス)CO2+塩化カルシウムCaCl2+水H2O 石灰岩に酸をかけると溶けることは昔の人も知っていたようです。ヨーロッパ大陸は石灰岩地帯です。石灰岩が地底で変性した大理石も産します。ヨーロッパの水がまずいのは、硬水(ミネラル、特にカルシウムが多い)だからです。その点、日本は火山国ですから水は軟水です。水道水だけでも十分美味しいのに、日本でミネラルウォーターを飲むのはばかげています。

火山国の日本ですが、石灰岩も沢山出ます。秋吉台をはじめとする鍾乳洞のある台地、近くにセメント工場がある山はみな石灰岩が出ます。私は新潟県糸魚川の明星山で石化岩を拾いました。(長野県でも塩尻と辰野の間の善知鳥峠には石灰岩鉱山があります)  太古から現代まで、海中のサンゴ原虫がカルシウムを固定してきました。何億年と言う長い時間の中で、少しずつサンゴ(石灰石)が蓄えられます。時間と言うものはすごいですね。海水中の塩化カルシウム(水溶性)がサンゴ(炭酸カルシウム)になる化学式は以下の通りです。   CaCl2+CO2+H2O → CaCO3+2HCl  ちなみに、塩化カルシウムは苦汁(ニガリ)であり、消雪剤の塩カルです。昔の塩田製塩では塩にニガリが含まれていました。今は化学製塩なので塩化ナトリウムNaClだけです。

次に、岩を温めた理由です。石灰岩を焼くと、炭酸カルシウムCaCO3→酸化カルシウムCaO+二酸化炭素CO2  酸化カルシウムは生石灰です。水を加えると CaO+H2O→水酸化カルシウムCa(OH)2に変わります。水酸化カルシウムは消石灰です。生石灰を外に出しておくと、雨に打たれて消石灰になり、その時多量の熱を発生します。近くに燃えるものがあると、火事なるほどです。ハンニバルは固い石灰石をぼろぼろと崩れやすい消石灰に変えたのでした。この話は嘘っぽいです。石灰岩の上で火を焚いただけで、大量の石灰岩が生石灰に変えるのは大量の薪がいることでしょう。

先ほど話しましたが、日本の畑は火山灰が積もったところが多いので、土壌は酸性です。酸性土壌は作物がよく育たないうえ、スギナなどの雑草がはびこります。そのため、土壌をアルカリ性にする必要があります。農家では、作物を植える前に消石灰を蒔いて、土壌をアルカリ性にします。

大昔の土壌にはシダ植物ぐらいしか育ちませんでした。シダ類は窒素成分さえあれば育ちます。その後、植物が進化して花を咲かせるようになると、リン酸成分が必要になります。動物の糞尿にはリン酸塩が含まれます。植物が実をつけるようになると、カリウムなどのミネラルが必要になります。ミネラルは土壌からゆっくり根を介して吸い上げられます。こうして、少しずつ栄養を蓄えた植物体が腐って、それが腐葉土となって新たな植物を育てます。手っ取り早く作物を育てるのに、焼き畑農業がふさわしい理由がお判りいただけたと思います。数年耕せば、窒素、リン酸、カリウムは消費されてしまいます。慣行農法では、畑に肥料が必要な訳です。

理屈っぽくなったので、ハンニバルと岩山と酢の話はこれで止めます。紀元前にここまで化学は進んでいなかったので、岩を解かした話は後世の人が考えたフィクションかも知れません。

5. 酸素と鉄の由来 : サンゴ虫が世界中の石灰岩を作ったことを話しましたが、いま私たちが吸っている空気中の酸素はどこから来たのでしょうか。そして、多くの道具や機械に使われている鉄はどうだったのでしょうか? 大昔の地球の大気は、窒素 N2 と 炭酸ガス CO2 だけでした。そして、海水には水溶性の酸化第一鉄FeOが沢山溶けこんでいました。数億年?前までは、原始的な生物が存在していましたが、それらはみな酸素を必要としない生物(例えば嫌気性菌)でした。その頃、炭酸ガスを炭水化物に変える働きを持つ藍藻(らんそう)類が発生しました。それまで、生物がほとんど住まない海水で、藍藻は大繁殖して空気中の炭酸ガスを吸収して、炭水化物と酸素を発生させました。OO2+H2O → C6H12O6+6O2   こうして海水は少しずつ栄養豊かになり、大気夕の炭酸ガスが減って、酸素が増えました。酸素が増えたことで海水中に溶け込んでいた酸化第一鉄が酸化して、水に溶けない(不溶性の)酸化第二鉄Fe2O3となり、海底に沈殿しました。これが、今我々が利用している鉄鉱石です。もし、藍藻類が発生しなかったら、酸素を吸って生活する生物は存在しなかったでしょう。

6. 地球の環境を大きく変えた3つの生物 : ジャレド・ダイアモンドの著作に「銃・病原菌・鉄」という名著があります。現代文明を大きく変えた3つの要素を解説しました。私は、「地球環境を大きく変えた生物に、「藍藻(らんそう)、サンゴ虫、ホモ・サピエンス」を上げたいと思います。藍藻、サンゴ虫は先に述べました。あとのホモ・サピエンスは皆様の想像通りです。急速に文明が発達した4,000年の間に、人は地球環境にかなりの害毒を及ぼしました。多くの生物を絶滅させ、海洋や大気を汚染し、高温にしました。そして、いずれは自分自身を滅ぼすでしょう。人が誕生して200万年、宇宙の歴史が40億年とすると、人は宇宙年齢の0.05%しか存在しなったのですね。それを、たったの4,000年(0.0001%)で滅ぼしてしまったのでは、申し訳が付きません.

 

この項、これで終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

pagetop