私の本の読み方 10.龍膽寺雄 C.イシャウッド 藤村全集 八甲田山
2023年12月17日
『掌の上の悪魔」 龍膽寺雄著 日本小説文庫 春陽堂 昭和7年発行 とあります。著者名は「りんどう てらお」ではなく「りゅうたんじ ゆう」とよみます。因みに「膽」現在の漢字は「胆」です。この本は父が買った本で、父は昭和9年に日本医大を卒業したので、学生の頃読んだようです。竜胆寺雄(1901-1992)は当時は良く知られた作家だったようです。流行作家だったり、サボテンの栽培で有名でした。この小説を含め、作風はどちらかと言うと官能的(?)な小説が多かった多かった様です。(今の大衆小説よりは、かなりおとなしいが) 生真面目な父がどうしてこんな本を買ったのかなあ? 著者の略歴を見ると、龍胆寺は学生の頃結核を患い、順天堂病院に入院し、その後慶応大学医学部に入学しています。医者にはならなかったみたいですが。今でこそ医者の作家は星の数ほどいるけど、昔は森鴎外くらいしかいなかったのかも・・・・
「ベルリンよ、さらば - 救いなき人々— 」C.イシャウッド著 中野好夫訳 昭和35年刊発行 昭和35年と言えば私は中学3年生だから、おそらく姉達の誰かが買った本みたいです。クリストファー・イシャウッド(1904- 1984)はイギリスの作家です。私は初めてイシャウッドの小悦を読みましたが、それなりによくできた小説だと思います。イギリス人の脚本家がベルリンで生活しながら、英語の家庭教師をする様子が書かれています。下宿屋の主婦、下宿に住む人たち、主人公が英語を教える教え子(大人の、保養地で行き会う様々な人たち、ベルリンに居住する豊かなユダヤ人・・・様々な人を通じて、当時のベルリンの様子が描かれている。時代は第一次世界大戦からヒットラーが台頭する時代が描かれている。当時、連合国の人たちにとって、ドイツと言う国を知りたがっていたのだろう。訳者の中野好夫は高名な訳者なので、これからも中野の訳した小説を読んでみたい。
「島崎藤村全集」河出書房 現代文豪名作全集 昭和28年4月刊:藤村の短編、中編の全8編が載っていて、藤村の生涯の前半部が見渡せる構成である。内容は、小諸義塾時代の先輩の教師を描いた「貧しき理学士」から、三人の子供たちに財産を分け与える「分配」までの時期である。この全集の中で一番長い「佛蘭西土産」は、藤村のパリ遊学時代の日記風の紀行文で、藤村の多方面にわたる博識ぶり、特に絵画に対する興味が良く描かれていた。第1次世界大戦でパリがドイツ軍に包囲されたとき、藤村がリモージュと言う田舎村に滞在したときの様子は心にしみた。パリの喧騒と異国生活で心を病み、リモージュの自然の中で故郷の信州を思い浮かべながら、健康な精神を甦えられせていく下りは、「やはり藤村は信州人だなあ」と言う思いが強い。短編「三人」は信州松本で女学校の教師を務めている二人のところに、彼女らの同僚(藤村の四女?)が訪ねてくる話である。二人は里山辺の温泉(今の美ケ原温泉?)近くの農家に下宿しているのだが、実は私は入山辺の北小松にいたことがある。私が住んでいた頃は、まだ山辺は藤村の描いた雰囲気を残していて懐かしく読んだ。「分配」では、藤村の次男が画家になるのだが、先に読んだ「藤村記念館講演集」(実験室ブログ)私の本の読み方7. 2022.9.5)の中に、章の区切りごとに島崎鶏二の絵が数枚あり、この全集を読んで次男が画家になったことを知った。藤村は自分でも絵を描くくらいに絵画にのめり込んでいたらしい。「八甲田山死の彷徨」新田次郎著 昭和53年刊:以前読んだ本が書庫の中にあったので読み返した。この小説は映画にもなった。新田次郎は気象学者だと思うが、本文の中で「強い寒気の南下は北高南低型の気圧配置の時」とされているのが気になった。今は強い冬型は西高東低であることは誰でも知っている。この本は、史実に正確ではなく、フィクションがかなり混じっていると思うのだが、著者が書いた解説ではその点を記載していないことが気になった。(解説では、全部史実であるような書き方がしてある) でも、面白かったから許す。