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電撃

2022年11月11日

電撃                                    市川董一郎

子供のころから理科が大好きだった。特に電気に関しては、あこがれに近い興味があった。小学校低学年の頃は、モーターを使って動くおもちゃが欲しかったが、そんな贅沢は許されなかった。高学年になってモーターの原理が分かった時、私は電気の虜になっていた。モーターの駆動軸が回転すると、整流子も一緒に回転するので、コイルを流れる電流が逆転するという理屈がわかった時、頭がくらくらするほど感激した。

中学生の頃、親戚が自動車の修理屋だった関係で、バイクのバッテリーと電源トランス、整流器のお古を譲り受けた。それでモーターを回したり、ブザーやベルを鳴らして遊んだ。ある時、電源のトランスの1次側に6ボルト(V)のバッテリーを繋いで、2次側に繋いだ電気機器が動くか試した。1次側に繋いだ裸線を両手で持って、バッテリーのプラス極とマイナス極に接触させたら、すごいスパークが飛んだ。あわてて放したのだが、今度は両手にものすごい電撃が走った。たかが6Vでどうしてこんなに強い電撃がきたか分からなかった。後になって逆起電力が働いて、高電圧が生じることが分かって納得した。

中学に入ってからも電気に熱中し、親戚の兄さんから5球スーパーの部品を譲り受け、それでラジオを作ったり、ばらしたりして遊んだ。教科書は杉本哲著「初歩のラジオハンドブック」で、隅々まで読んだ。ラジオやオーディオ・アンプの製作では、電源を入れた状態で回路の調節中に、裸線を素手で触って電撃を経験することが良くある。テスターのリードの裸の部分を持って両手間の抵抗を測ると、乾いた素手では約1メガオーム(MΩ)位である。真空管を使った回路では、直流電圧が300V位なので、両手間には約0.3ミリアンペア(mA)の電流が流れることになる。たかが0.3mAでもそのショックは大きい。汗で手が濡れていたり、接触する金属の面積が広くなれば、さらに大きな電流が流れるだろう。

真空管アンプ愛好者の中には、直流電圧が500V以上(時には1000V)位のアンプを作る人がいる。彼らは「その時の電撃は、体が浮く」と表現する。このくらいの電撃は命にかかわる。私の作る真空管アンプのB電圧はせいぜい300V位なので高電圧アンプほどではないが、強い電撃は何度経験してもいやなものである。

電気工事の人は、100Vくらいの商用電源は平気で素手で触る。靴を履いて地上に立ち、裸線に触れれば手から足に流れる電流は0.1mAぐらいだろうか?それ位の電流だと指先から前腕がしびれるだけで、作業は継続できるそうだ。それ以上の高圧線で、電気が来ているかどうか確かめる時などは、指の腹で裸線に触るのは危険である。電流により腕の筋肉が痙攣して裸線を握ったまま放せなくなるからである。指の背中でちょっと触ってみるそうだが、そんなことを電気工事士の試験で答えたら、試験には落ちるだろう。「良い子はまねをしてはいけません!」

 

 

最近、あちこちの施設に自動体外式除細動器(AED)が設置されるようになった。規則正しく拍動していた心臓が、何らかの原因で細動を始めると、心臓からの送血が途絶える。その時、直流の大電力を心臓に加えると一瞬心臓が停止し、そのあと規則的な拍動が再開する。それを行う機器がAEDである。AEDはどれくらいのエネルギーを出力するだろうか?エネルギー量はAEDの形式により異なるが、話を簡単にするため単相波で、エネルギー量を150ジュール(J)、パルス幅を10mSec、電圧は1500Vとする。J=電力量×秒=電圧×電流×時間である。胸に電極を張り付けた時の直流抵抗は50オーム(Ω)として、それぞれの数値を代入すると、電流は10Aと計算される。これまで話してきた電気工事やアンプ調節中の電撃の電流がmA単位だから、AEDはその10,000倍も大きく、除細動後は電極を着けた皮膚は軽く火傷するほどである。それで命が助かるのだから、軽い火傷くらいはお許し頂きたい。もちろん、除細動を行うような状態の患者は意識がないので、怖がる必要はない。

 

 

私がいつも散歩で通る山道は、獣除けの電気柵が仕掛けてある。それでもサルなどが乗り越えられないように、電気柵と平行して頑丈な金網と扉を設置してある所がある。事故はそのような場所で起きた。ある夏の夕方、小雨の降る中を薄着で汗と雨で背中を濡らしながら、その柵を通過しようとしたときである。電気柵の電線は4本あるが、面倒だったので真ん中の2本だけ外して、前方の金網をつかんで通過しようとした時だ。ものすごい電撃が背中を走った。電気的には接地(アース)されている金網を両手でつかんでいたので、私の身体は接地状態であった。そこに汗と雨でぬれた背中に裸の電線が触れたのだからたまらない。どの位電流が流れただろうか?電気柵の電圧を1,000V、私の体の直流抵抗を1キロオーム(kΩ)とすると、私の身体を1Aの電流が流れたことになる。おそらく電気柵は小容量のコンデンサーから出力されるので、すぐ放電してしまい持続時間はごく短時間だろう。だが、場合によっては命にかかわるかも知れなので注意して欲しい。先行する心拍のQT時間内に電気ショックを加えると、心室は細動を起こす危険があるからである。ちなみにパルス幅を1mSecと仮定すると、仕事量は1Jである。

乾いた地面で靴を履いた状態で獣除けの電気柵に触れると、1秒に1回ぐらいの電撃を感じる。耐えきれないほどではないけれど、そのショックは強烈である。はたしてこんな高電圧にする必要があるのか、専門家は検討して欲しいものである。かなり以前、人や獣が侵入しないようにと、川に300V位の交流電流を流して、大事故になったことがあった。10mほど離れて電極を置いた場合、歩幅を75cmとすると、両足間に22.5Vの電位差が生じる。電流は両足間を流れるので心臓は止まらない。しかし、筋肉は神経を流れる微細電流で動くので、低電圧でも電流が両足間を流れれば、筋肉が収縮して人は転倒するだろう。身体が水中に没すればさらに危険な状態になる。電気ナマズや電気ウナギは同じメカニズムで、外敵から身を守っている。

ずっと昔の話で、今となっては時効だから書くが、子供のころ私にバッテリーを譲ってくれた親戚の自動車修理屋さんが、電気で魚を獲るのをやって見せてくれたことがある。バッテリーと自動車のイグニッションコイルとリレーを使って、高電圧を発生させ、川に沿って10mくらいの間隔で電極を置いた。スイッチを入れた瞬間、バシャバシャと音がして小魚が跳ねて、やがて腹を上にして流れてきたのを収穫した。それ以外に、一網打尽に魚を獲るやり方には、川に毒を流す方法もある。川に毒(特に青酸カリ)を流す方法は獲れた魚が食べられないので普通はやらない。昔わが国で行われた漁獲方法は、エゴノキの果実を使った。果実が割れて種子が顔を出す時期、果実を集めて布の袋に入れて河原の石に叩きつけ果皮をつぶし、袋を水に漬ける。エゴノキの果皮には、界面活性作用のあるサポニンが含まれているため、魚は鰓(えら)呼吸ができず窒息する。鰓の表面の細胞は脂肪の膜で覆われていて、水中の溶存酸素を体内に取り込むが、サポニンが作用して酸素の取り込みを阻害するらしい。電気や毒で漁を獲る方法は、いまは法律で禁じられている。

私がこれまでに経験した電撃は数えきれないぐらいあったが、あまり気持ちの良いものではなかった。しびれる話ばかりで、読者の頭もしびれてきた頃だと思うからこの辺で筆をおきます。お後が宜しいようで・・・・

 

 

 

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