大谷不動尊 3. ツタウルシ紅葉
2022年10月24日
今年の紅葉は色付きが悪いそうですが、写真のツタウルシの紅葉はまずまずでした。暖かい午後で、おだやかな日差しが降り注いでいました。遠くで雄の鹿の求愛の鳴き声が聞こえてきました。「キィーーーーン」独特の、長く尾を引く鳴き声です。
奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は悲しき 猿丸太夫
この歌の解釈に関して、「紅葉を踏み分け」るのは、鹿か作者(猿丸太夫)か論争があるようです。ネットで検索すると、たいていの解説者は鹿説を支持してますが、二人ほどは文法的(「係り結び」とか「連用中止法」)に作者説を支持しています。私は古典の文法には詳しくないのですが、絶対に作者説だと思います。鹿は初めから奥山にいるのですから、わざわざ「紅葉を踏み分ける」ことを歌に詠む必然性はありません。そして、作者が歩いて奥山に行くから、紅葉が踏み分けられるのです。
鹿説をとなえる解説者の多くは、この歌に「雌鹿を恋しくて鳴いている雄鹿の悲哀」も感じると言いますが、そこまで鹿を擬人化する必要はないと思います。確かに、この時期の雄鹿の鳴き声は哀愁を感じますが、鹿は悲しくて泣いているのではなく、本能で鳴いているだけです。悲哀を感じるのは作者だけで良いでしょう。
作者が奥山まで遠い道のりを歩いてきて、雄鹿の鳴き声を聞くからこそ、この歌の本意が伝わるのだと思います。実際、私は苦労して歩いて山奥に着き、鹿の鳴き声を聞いた時、初めてこの歌の良さがわかりました。帰り道で、私の車の前を大きな鹿が横切りました。カメラを取り出す暇もなく、藪の中に消えてしまいました。