2610 昨日の暖気、今日から冬の嵐 (Aさんの遭難記録)
2026年1月11日

日本海で低気圧が発達して、昨日は強い南風が吹き暖かくなりました。一夜明けた今朝は、低気圧の影響でどんより曇っていて、時々みぞれが降っています。中野はこの後一旦晴れ、寒気の流入とともに、風と雪が強くなるでしょう。合同庁舎の気象観測タワーの風向計は、北西を示しています。昨日から今日の天気の変化は、昭和26年1月の気象と重なります。丁度.その頃私の知人のAさんが山岳遭難したのです。同行者は友人のBさんでした。
まずは時代背景から書きます。日本にスキーが導入されたのは、最初は北欧からでした。靴は足首が自由な革靴で、踵が上がるビンディングで、滑降の方法はテレマーク法です。スキーの裏にシールと言う滑り止めを貼り、圧雪されていない山野を自由に滑りました。Aさんの家庭はハイカラで、Aさんはお父上から教わったテレマークの名手でした。高校時代は水泳部でスポーツ万能の頑強な体でした。夏山や冬山にもよく登り、地図読図をはじめとする登山技術はベテランの域でした。以下、Aさんからから聞いた話を、文章にしました。Aさんの遭難事故はその後も詳しい報告がなく、今となっては語り継ぐ人もないと思うので、Aさんから聞いた話を、殆ど脚色を加えずに、ここに記します)
この時の計画は、友人と須坂駅からバスで山田温泉に行き、そこから徒歩で松川を遡り、五色温泉から笹沢伝いに七味温泉を経て万座峠に登る予定でした。1月中旬は雪が多く山田温泉までは圧雪の上をバスが走る状況でした。当時は幹線道路でも除雪されず、冬は圧雪状態になり、寒気が続くと完全な氷状態になる。春になって氷がゆっくり解けるので、冬中通行が可能でした。ところが、23日は暖気が入り、道路がザクザクなシャーベットになって、バスが通れなくなってしまいました。
1月24日の午前は須坂から山田温泉までは徒歩を強いられました。明日の朝、登ることにして山田温泉に泊まりました。25日は万座温泉行きは雪崩が怖かったので、目的地を変えて山田牧場→笠ヶ岳の西肩の峠(傘峠と仮称)→熊の湯を目指しました。山田牧場に着く頃は吹雪き始めていました。温泉泊りの予定だったのでテントは持参しませんでした。夕方か夜までに熊の湯に着けると判断して、登行を続けました。今にして思えば、この時下山すればよかったのですが、無理をして登り続けたのが誤りでした。傘峠まで登ったら、猛吹雪でにっちもさっちも行かなくなりました。積雪量も増えて、身動きが取れない状態でした。それでも山田温泉まで無理をしてスキーで下山することはできなくはなかったが、この場所でビバークすることにしました。簡易テントさえなかったので雪洞を掘りました。携帯用のノコギリで周囲に生えていた木の枝を切って、雪洞の入り口に立てかけて風を防ぎました。(当時の木製のスキー板はすぐ折れるので、修理用に携帯ノコギリを携行していた) その晩はなんとか眠れました。 26日 朝 相変わらず猛吹雪が続いていましたが、行動することに決めました。歩き出してすぐに、手足の感覚がなくなり、凍傷にかかったと悟りました。この頃になって、行動不能を悟りましたが、昨晩の雪洞まで戻ることもかなわず、再び新らたな雪洞を掘りました。体力もなく不完全な雪洞しか掘れませんでした。吹きさらしの雪穴で天候の回復を待ちました。Bさんは「痔が出て痛い」と嘆いていました。 27日朝 快晴でした。Bさんの様子がおかしかったが、救助要請が先と考え行動に移しました。その辺りから、私の記憶があいまいになってきました。暫く歩くと、コースが分からなくなり同じところをグルグル回ったかもしれません。途中のどこかで、浅間山の噴煙が白かったことが記憶にあります。(記録者注:Aさんが歩いたコースは笠ヶ岳の北斜面だと思うのだが、そのコースだと浅間山は見えず、この事実は幻想たと思う。南斜面だとすると、このコースは急崖で雪崩の危険もあり、普通このコースは辿らない。晩年、Aさんが存命の時、聞いておけばよかった)熊の湯近くになってもコースが分らず苦労したが、温泉で飼っている犬が盛んに吠えて道を教えてくれた。以前から、温泉に行く度にこの犬をかわいがっていたので、私のことを覚えていて、方向を教えてくれたのかも知れない。かなりの時間がかかって、ゆっくり熊の湯にたどり着いたと思います。熊の湯近くに来たら屋根の雪下ろしをしていた人たちが私を見つけて、駆け付けてきてくれました。この間は、幻の中を歩いていたように思います。熊の湯に保護されたが、冬期間はバスが上がってこれず、体力が回復せずすぐに里に下ろすことができなかった。翌日、橇に乗せられ丸池まで運ばれ、進駐軍の雪上車で里まで載せられ、北信病院に入院した。凍傷で多数の手指、足指を失ったが、命は助かった。(私は、Aさんが入院中に節分の豆を撒きに,病院へ行った記憶がある。)





















